旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

文楽の「夢の酒」

この季節に聞くのがぴったりな落語に「夢の酒」があります。先代桂文楽の数少ないレパートリーのひとつで、私は文楽以外でこの噺をきいたことがありません。
梅雨がまだ明けやらぬ昼下がりの寄席で、古今亭志ん朝が語るこの噺を聞いてみたかったのですが、かなわぬ夢となってしまいました。


夫の夢の中に現れた女性に悋気する若妻、文楽が演じるとおきゃんで可愛い「ご婦人」が見えてきます。そう言えば「悋気」なんて言葉も、落語の中で使われるだけになってしまいました。


この噺、後半に不思議な味わいがあります。
若妻お花は舅にこうお願いします。
「お父っつぁん、夢であの女の家に行き、叱ってやってください。」
6月28日の「旭亭だより」に書きました、夢の続きを見る話になるのです。それも倅の見た夢の続きを見るという、非常に困難なミッションを親父は突きつけられたのです。さて、それは可能なのか?


「淡島様の上の句を読み上げて、だれそれの見た夢のところへ連れていっていただけましたなら、下の句も読み上げます」とお願いすれば出来るというのです。淡島様といえば針供養ですが、なんでここに出てくるのでしょうか。*1
淡島様の霊験あらたか、父親は向島にあるその女の家に行くことが出来ました。そこで酒を勧められます。
酒に眼のない親父ですが燗酒しか飲みません。燗がつく間にと冷や酒を勧められますが、若いときにしくじったことがあると頑なに断ります。
さてそのとき、気が気ではない嫁のお花が舅を起こしてしまいました。夢から覚めた親父はがっかりして一言。
「冷や酒でも飲めばよかった。」


文楽の面白さが最近になってやっとわかってきました。これも歳をとる効用のひとつですね。

*1:淡島様と夢見については、平岡正明が新刊「志ん生的、文楽的」の「頭蓋骨の中の桂文楽」の章で考察していますので是非お読みください。一読三嘆すること間違いなしです。