旭亭だより

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佐藤幹夫「自閉症裁判」(1/3)

村瀬学の「自閉症」を読み、浅草でレッサーパンダの帽子をかぶった男が19歳の女性を殺害した事件のレポート、佐藤幹夫の「自閉症裁判」(ISBN:4896918983)のことを知りました。


殺人のあった場所が私の育った町の近くで、犯人が異様な格好をしていたと報道されていましたので、2001年4月に起こったこの事件のことはよく覚えています。しかし、数日後に犯人が逮捕され、新聞に記事が載らなくなる頃には他の事件と同じようにいつの間にか忘れてしまい、裁判の経緯を知ることもありませんでした。
養護学校に勤務経験のある佐藤幹夫は加害者側、被害者側の双方に取材してこの「自閉症裁判」を書き上げました。彼の経歴から言って、被害者側との接触はさぞ難しかったでしょう。裁判が始まってから二年後に佐藤は被害者の両親と会うことはできましたが、その後コンタクトを取った叔父からは当初会うことを拒否されました。
私がこの本を手にした一番の原因はここにありました。


村瀬のこの本で紹介で、加害者は自分が知的障害者であることをを認めず(実際には高等養護学校を卒業し、捨ててしまいましたが障害者手帳を持っていました)、それでも弁護団はこの事件を「自閉症」の人間が起こした犯罪と捉え、弁護活動をしたということは知っていました。
また同様に、加害者は劣悪な環境で育ったことも知っていました。
加害者の父親は軽い知的障害を持ち、働いたお金の大半をパチンコにつぎ込むなど、金銭の管理能力を欠いていました。母親は亡くなっていて妹が主婦代わりをしていましたが、彼女は父親や兄のために肺腫瘍、大腿部軟部肉腫や脳腫瘍の手術を受けていながらも働いていました。裁判がきっかけとなって妹はボランティアの人たちの支援を受けることができましたが、スタッフに「これまで生きていて、楽しかったことはひとつもない」と言ったそうです。彼女は裁判の結審の前に死去しました。


私は加害者の病歴と事件との関連、被害者の家族の事件に対する思いなどを知ろうとしてこの本を読み始めたのです。しかし、この本は別の問題を私に突きつけてきました。
それについてうまく伝える自信はないのですが、明日の便りに記すことにします。