旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

手本は赤胴鈴之助

チャンバラ好きの私でしたから、最初に好きになったマンガもやはり時代物でした。「赤胴鈴之助」と「矢車剣之助」です。


とりわけ「赤胴鈴之助」には夢中になりました。
どのくらい夢中になったかと言うと、ラ・マンチャに生まれたあの人と同じように、夢と現実の区別がつかなくなってしまったのです。
4、5歳ころの私は、諸国を回り剣術修行したり、憎き悪党一味を退治することが現実にあるものと、信じて疑いませんでした。洋服を着て生活をしているここは仮の世界で、この町を一歩踏み出せば電気もない江戸時代の町並みが広がっていると本気で考えていたのです。
家族と過ごす居心地のいい生活は捨てがたいものです。しかし、男児と生まれたからにはいつか武者修行の旅に出なくてはなりません。そして、その日は自分で決めなければならないのです。


ある日、私は決意を固めて母に言いました。
「武者修行に旅立つので、月代を剃って髷を結ってください。」
母は呆れて何も言うことができませんでした。たぶん「この子はバカだとは思っていたけれど、ここまでバカとは思っていなかった」のでしょう。
少し間があり、母から諄々と諭されました。「赤胴鈴之助」の世界はマンガの中だけであり、現実にはそんなものはないのだ、と。


その日、世界が崩壊しました。もしかしたら私は、未だにそのショックから立ち直れないでいるのかも知れません。