旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

湯島通れば

湯島天神の絵馬

神田明神を出て清水坂を上野方向に歩きます。
今回の「東京散歩」はテーマは「その前は何度も通っているのだけれど、中に入ったことがないところに行ってみよう」ですが、ゴールの湯島天神だけは違います。ただ、都内有数のラブホテル街を抜け、正面から境内に入るのは今回が初めてです。いつもは不忍池上野広小路の方から来て、男坂を上るのです。


境内は梅祭りとのことで、人があふれていました。この歳になっては学問も成りがたしですから、お参りはせずに本殿左側の梅園に向かいます。梅は五分咲きでしょうか、いい香りがしています。少し歩き疲れたので、甘酒を求めて一休みです。からだが暖まります。


受験生と思しき子たちは数人しかいません。が、数カ所ある絵馬の奉納場所には合格祈願のそれが鈴なりになっていました。みんな受かるといいね。


善男善女のほとんどが中高年の人たちで、あちこちから泉鏡花の名前が聞こえてきます。さすがに「湯島の白梅」を口ずさむ人はいませんでした。私もそうだったのですが、ここで一節そっと歌ってみましょうか。
  湯島通れば想い出す お蔦主税(ちから)の心意気
  知るや白梅玉垣に 残る二人の影法師


かってよく行われていた素人演芸会では「婦系図」湯島境内の場は、「金色夜叉」の熱海海岸の場と並ぶ人気演目でした。ただ、寛一お宮は男女を逆にして笑いをとることが多かったのですが、お蔦主税は真面目に演じられていました。「別れろ切れろは芸者の時にいう言葉、今の私にはいっそ死ねと言って‥」というお蔦のセリフは小学生でも知っていました。
金色夜叉」と違って「婦系図」はハッピーエンドを迎えます。お蔦主税の姿には鏡花夫妻の結婚の経緯が色濃く反映していますので、さもありなんでしょう。


さてこれで第三回「東京散歩」もおしまい、夫婦坂を下ります。このへんには雰囲気のいい居酒屋がたくさんあります。さてどこに入りましょうか。