数人の好みの作家の小説だけを読んできた私ですが、昨年あたりから少し範囲を広げるようにしました。
また、お楽しみには時代小説を読んできたのですが、エンターテインメント作品にも手をつけるようになりました。
この便りにも書いたことがありますが、辻原登と伊坂幸太郎の小説が好きです。先月は両者の文庫本の新刊が出版され、2冊とも実に楽しく読むことができました。*1
おふたりの作品には共通点があるようです。現在の、実在する街を舞台にしているのですが、あちこちが微妙にズレているのです。
辻原登の「遊動亭円木」では、主人公の落語家は冒頭で死んでしまったように私には思えます。そうならば、その後も続く物語はこの世界のものではありません。
「だれのものでもない悲しみ」も、この世界の出来事ではないので、あのような馬鹿馬鹿しいほどの人の繋がりが展開されるのです。
辻原登の作品は<異界>を描いているのです。その異界を掌るものは、もしかしたら妖しい魅力をたたえた金魚たちなのかも知れません。
伊坂幸太郎の仙台を舞台にした作品群が私は大好きなのですが、この仙台は<パラレルワールド>のように見えます。いくつもある仙台に住む同じ名前を持つ人たちが、時としてその世界を越えて触れあっているのです。