旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

「滝山コミューン 一九七四」

著者の原武史氏は私よりひとまわり下で、育った環境もまったく違います。
しかし、東京都内の公立小学校に通ったことは共通していますし、原氏とはまったく異なりますが不快な小学校生活を送ったこともあって、この本を手にしました。もちろん、昨日も書きましたが、読売新聞に掲載された佐藤卓己氏の書評を読まなかったら、この本の存在を知ることはなかったでしょう。


ひとつき前に読んだ本なので、印象はだいぶ薄れていますが、著者の語り口には感心しました。少年時代を回顧する上質な小説のように読めるのです。そこには友だちとの出会いや別れ、初恋の芽生えのようなものも書かれています。
あるイデオロギーに対する批判の書なのですが、それが読後感を穏やかなものにしてくれます。


著者は自身の日記や文集、書籍などをたどり、自分たちが巻き込まれた「学級集団づくり」運動とはどのようなものであったのかを明らかにします。また、教師や同級生、父兄などに丹念にインタビューし、一方的な批判に終わらないその運動の中にあった人たちの感想を引き出しています。
当然のことながら、「学級集団づくり」運動を主導した教員とも再会していますが、問い詰めることはしていません。


卒業の10年の後、同窓会が開かれます。そこで著者は意外なことに遭遇します。「滝山コミューン」を経験した人たちのほとんどが、当時の細かな記憶を喪失していたのです。
私はこのことに救われる思いがしました。「滝山コミューン」は、著者や、彼と同じように地域の公立中学校に進学することを避けた向学心に燃えた人たちには今でも大きな痕跡を残しているのでしょうが、そのようなことは、忘れてしまえればそれが一番いいのです。