旭亭だより

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「幼年期の終わり」

池田真紀子による新訳のアーサー・C・クラーク幼年期の終わり」を読みました。SF小説の古典です。福島正美の訳で30年前に読んだはずなのですが、内容はすっかり失念していました。*1
池田訳は89年に出版された改訂版をテキストに使っています。全3部のうち第1部のみが改稿されているとのこと。これは近未来小説にありがちなことで、実際の時代がそれに追いつき、書かれたことが古くなってしまったからでしょう。
ストーリーは忘れていたのですが、結末が理解できなかったことだけは覚えています。しかし、池田訳で再読し、納得することができました。これは訳文のせいではなく、私の側の変化がそうさせたのでしょう。といっても、池田訳は読みやすく、いい訳文です。
ある宇宙論に、このまま無限に宇宙が拡散していった場合、生命体はどうような形態を取るであろうか、ということが書かれていました。その可能性のひとつに、「幼年期の終わり」の結末は似ています。
巻末の巽孝之の解説に、「家畜人ヤプー」の作者沼省三が「幼年期の終わり」の刊行時(1953年)に原文で読みこなしていた、と書かれていました。マゾヒズム文学の金字塔である「家畜人ヤプー」ですが、SFとして読んでも傑作といえるのかも知れません。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

*1:福島訳の邦題は「幼年期の終り」です。