旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

絵を描く人たち(3)

そのうちに彼と酒を飲むようにもなりました。酒は飲まないんだろうなとわけもなく思っていましたので、「飲みますよ」と言われたときにはびっくりしました。
彼の酒の飲み方は、何日も続けて会いに来たりするようなふるまいに似て、マイペースでした。ひとりでぐいぐいと飲み、相手の酔い加減を考えに入れるということがないのです。
でも私には、それが不快ではありませんでした。そういう人なんだと、彼の言動をいつの間にか抵抗なく受け入れてしまうようになっていたのです。たぶん私だけでなく、彼のそばにいる人たちはみなそうなるのではないか、と思わせるオーラのようなものが彼にはありました。


彼が小さなデッサンを見せてくれたことがあります。卓越した技倆の持ち主であることはひとめでわかりました。それ以上に、見る者を引き込まずにはおかない魅力も、そのデッサンは具えていました。
彼のマンションで完成した作品を見る機会が訪れました。彼は蔵書を見て欲しかったようですが、私の目的は別です。
それは抽象画でもポップアートでもない細密画でした。もちろんイラストレーションではありません。ただ生身の彼から感じる何かと、その作品はわずかながらずれているように私には見えました。でもそれは作品の価値を減ずるものではありません。
疑ったことはなかったのですが、これほどの絵を描く人であると思っていなかったことは事実でした。
彼は正真正銘の画家だったのです。