旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

唯一の自慢

自慢できることなどほとんどない私ですが、中里介山の「大菩薩峠」全巻を読破したことだけは誇っていいかなと思っています。吉川英治の「宮本武蔵」、山岡荘八の「徳川家康」も長い小説ですが、完読した人は数人知っています。*1
大菩薩峠」は世界最長の小説といわれていますが、はっきり言ってこの作品は小説ではありません。介山は小説として書き始めたのでしょうが、巻を追うに従い、なんだかわからないものになっていきました。ですから、この作品は未完ですが、完成できるものではなかったのです。
主人公、机龍之介は物語の途中でほとんどあらわれなくなります。たぶん死んだのです。登場人物はどんどんと増え、彼(彼女)らを主人公とした物語がいくつもできていきます。おまけに、勝小吉の「夢酔独言」の紹介と引用だけで終わっている巻まであります。
早い話が、「大菩薩峠」は完読する必要のない作品です。私は二十代のころに図書館で借り、挫折しました。でも完読の思いがやまず、十二年前にちくま文庫版が出たときに再度挑戦しました。全二十冊、毎月二冊の配本でしたので、発売される毎に読んでいこうと決めたのです。
こんな作品だと知っていたら、読むことはなかったでしょう。無駄なことをしたものです。でもやりおえた充実感だけはありました。
ですから、この本を人に勧めたことはありません。せいぜい、ちくま文庫なら一冊を読むだけで十分ですと言うくらいです。「それでは読んだことにならないでしょう」と返されたら、安岡章太郎の「果てもない道中記」を勧めることにしましょうか。
ついでに、白井喬二「富士に立つ影」と大西巨人神聖喜劇」を完読していることも自慢しちゃおうかな。この二作品、評判が高い割りには読破した人が少ないのです。こっちは「大菩薩峠」と違って間違いなく面白い小説ですので、お薦めしちゃいます。


大菩薩峠〈1〉 (ちくま文庫)

大菩薩峠〈1〉 (ちくま文庫)

*1:この二作品、私は読んだことがありませんし、これからも読むことはないでしょう。