旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

凛としたひと逝く。

岡部伊都子さんが4月29日に亡くなりました。享年85歳。
岡部さんの著作は高校生のときに友人に勧められ、何冊か読んだことがあります。新潮社から出ていた、写真が美しい随筆集です。
彼女の本を読んだのはそのときだけで、とても感心したのですが、なぜかその後の著作を追うことはありませんでした。たぶん、寡作だったので、次の本を待つことが十代の私にはできなかったのでしょう。
随筆の内容はほとんど忘れてしまいましたが、戦争に対する怒りの激しさははっきりと覚えています。岡部さんは沖縄戦で婚約者を喪っていたのです。
それと、お菓子に関する文章も記憶に残っています。病弱で食の細い少女にとって、その美しさと味わいはどれほどありがたかったことかと、彼女はあの端正な文章で感謝の気持ちを記していました。
凛とした、ということばはすっかり手垢がついてしまいましたが、岡部伊都子さんを形容するときには本来の意味を取り戻すはずです。
合掌。