旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

落語「どす黒い」(中)

「へい、それなんですがね。また教えてもらいたいことができまして‥‥」
「ほうほう、疑問を持つことは人間の成長に欠かせないものだからの、感心感心。なんでも質問してくださいよ。知っていることはもちろん、知らないことも立ち所に答えてしんぜよう。」
「その、知らないことは教えてもらわなくて結構ですよ、ご隠居(この因業じじいめ)。」
「で、その知りたいことと言うのはなんじゃ。」
「『どす黒い』って言い方がありますよね。こー、血が出たときなんか使う。濁った黒さを言うんですかね、あれは。で、その『どす』ってのは、一体(いってい)なんなんですか?」
「ふーん、確かに吐血したときの血の色などを『どす黒い』と言うな。(答えがわからず、考えあぐねるふりがあって)ほう、そうじゃ(手を打って)、八っつぁんはいいところに目をつけた。そりゃなかなかいい質問じゃ。」
「ご隠居は知っているんで‥‥(半信半疑の様子)。」
「横町の知恵袋と言われている私だ。知らないことはありませんよ。」
「横町の知恵袋?誰もそんな風には言っていませんがね。せいぜい横町のしわい袋。これ、皺としわいをかけてるんですけど‥‥。」
「これこれ、そんなことは言うもんじゃない。年寄りは敬わなくてはいけません。『亀仙人より近所の老人、年の功なら負けはせぬ』と孔子様も言っておるではないか。で、その『どす黒い』なんだが、元々はすごく黒いという意味じゃったんだ。」
「『亀仙人より』ってのは都々逸ですか?そりゃいいけど、すごく黒いのだったら『チョー黒い』でも『ギガ黒い』でもいいんじゃないですか?」
「いい歳をした大人が、そんなJKことばを使ってはいけないな。」
「えっ、ご隠居さん、『JK』なんて知ってるんだ?」
「私はなんでも知っていると言ったばかりじゃないか。『星はなんでも知っている』は平尾昌晃、『私はあなたのすべてを知っている』はMC神山じゃけどな。」
「またー、これだからご隠居は信じられない。」