熊倉千之「漱石の変身」を読み始めましたが、前作「漱石のたくらみ」がどうしても読みたくなり、購入しました。「明暗」の結末はこれしかありえなかったと「漱石の変身」で力説されていたからです。
「明暗」を初めて読んだのは二十歳のころでした。
ちょうどそのころ、クラス会で久しぶりに再会した中学時代の同級生から、恋文とも受け取れる微妙な表現の手紙をもらいました。私もそのひとが好きでしたから、とても嬉しかったのですが、はたしてそれでいいのか確信が持てませんでした。考えたすえに、直接彼女に訊くことにしました。電話の向こうで、「そのように考えてください」と中学時代と変わらない落ち着いた声で彼女は答えました。
有頂天になった私はその場でデートを申し込み、翌週にふたりで映画を見ることになりました。
うっすらと化粧をしたそのひとは美しく、大学にも行かず就職もしていなかった私はかなり気後れを感じましたが、それなりに楽しいひとときを過ごし、彼女を家まで送り届けました。
翌週、次のデートの約束をしようと電話をすると、いきなり絶交を告げられました。もう会いたくないので電話もかけないで欲しいというのです。
電話は一方的に切られました。私はその理由を問うこともできなかったのです。
「手も握らなかったし、失礼な振る舞いはしなかったはずだけどなー」と、どうやら奥手であったらしい青年は途方に暮れるばかりでした。
なんでお前のしょぼい失恋話が「明暗」とつながるのか、ですか?
それは明日のお楽しみに。予告しておきますが、この話はなんと村上春樹ともつながります。