旭亭だより

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中村仲蔵

渡辺保「江戸演劇史」を読み進めています。面白すぎます。小説を読んでいるみたいです。


下巻の冒頭で、落語好きにはたまらないエピソードが取り上げられていました。初代中村仲蔵の斧定九郎です。
圓生で有名な「中村仲蔵」ですが、私は先代正蔵のも好きです。最近では志の輔がいいですね。
落語家の話は信じないことにしていますので、仲蔵が、山賊姿であった定九郎を御家人崩れに変えたというのはフィクションだと、私はずっと思ってきました。でも、よくできた噺だな、と。


落語の「中村仲蔵」、半分は実話だそうです。初代中村仲蔵が初めて定九郎をあの姿で演じたことは事実なのです。
ただ、それを思いついたのは仲蔵ではなく、五代目市川團十郎でした。
四代目がやっていた研究会「修行講」でその案を出したというのです。五代目は定九郎を演じたことがありました。
しかし、四代目はそれを「團十郎のような者がすべきではない」と却下しました。写実に走るな、ということだったようです。
でも、團十郎以外がやるのはかまわないわけですから、仲蔵は五代目の許可を得て、あの姿の定九郎を演じたのです。
これもまた、いい話ですね。


仲蔵が出てくる落語はもうひとつあります。これも「忠臣蔵」上演に関した噺の「淀五郎」です。
突如よくなった沢村淀五郎の判官に感心した市川團蔵がつぶやく「仲蔵だな」の、正蔵のひとことが忘れられません。


江戸演劇史(下)

江戸演劇史(下)