旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

あゝらそふかしら

四半世紀ほど前に漱石夫人、鏡子さんを主役にした戯曲を書こうとしたことがありました。
小学生のときにクラスで上演する劇の台本しか書いたことのない私が、なんでまたそんなことをしようとしたのかは、今となっては謎です。
結果は当然のごとく、メモのような下書きを作っただけで終わりました。


内容はもう覚えていません。ただ、夫である漱石や、漱石山房に集まる人々を冷ややかに観察する鏡子夫人というような、ありきたりのものではありませんでした。
そのころの私には、鏡子さんがコケティッシュで可愛い女性に思えたのです。


実は外題はできていました。
音楽でもそうなのですが、私はタイトルを付けないと前に進めません。なんの脈絡もない仮のタイトルでもいいのです。「気分はマングース」とかね。
その戯曲未満につけた仮題は「あーらそーかしら」でした。
繊細な夫を理解できない鈍感な夫人という世評に対して異を唱えたかったからです。また、苦沙弥先生の夫人に対するぼやきへの反論のことばでもありました。
それが気に入ったので、そのまま外題にすることにしました。表記は歴史的仮名遣いに改めましたが‥‥。(はじめは「あゝらさうかしら」としてしまった、ものを知らない私です。)


メモが増えるとともに、鏡子夫人にシンパシーを感じるようになってきました。それが嵩じて、とうとうこの役を自分で演じたくなるような始末です。
どうやら鏡子さんに憑依されたようです。これはまずい、一旦は距離をおこうと考え、そのままになってしまったのです。