旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

茶色い戦争ありました

「古い家を処分し、マンションに引っ越したんだけど、遊びに来ない?」
Nさんからお誘いがあり、家見舞に出かけました。
「私、料理がからっきしだから、妹に来てもらったのよ。」
Eさんが台所で、かいがいしく働いていました。この美人老姉妹は容姿も性格も対照的ですが、仲はとてもいいのです。確かEさんの家庭も、近くにあったような気がします。Nさんは、コッカースパニエルの愛犬はいましたが、ひとり暮らしでした。


食事がすむと、Nさんが古いアルバムを取り出しました。
「引っ越しのおかげで、懐かしいものがたくさん出てきたのよ。昔の写真だけど、見る?」
アルバムにはセピア色に変色した写真が貼られていました。軍服を着た兵士の写真が眼にとまりました。なかなか男前です。
「亭主よ。」
戦死したのかな、という思いが胸をよぎりましたが、それを察したかのようにNさんが続けました。
憲兵だったから、戦争には行ってないのよ。」


ご多分に漏れず、憲兵の暮らしぶりはよく、戦争末期でも食べ物には不自由しなかったそうです。しかし、そのツケは敗戦後にやってきました。
近所からは白眼視され、仕事も見つからなかったのです。酒におぼれ、Nさんに辛くあたる日々が続きました。
憲兵時代とのあまりの落差に愛想がつきちゃってね、離婚したのよ。」


アルバムの中の、陽当たりのいい縁側で和服姿でくつろぐ、美々しく若い好一対のふたりは、幸せそのものといった微笑みを浮かべて、私を見つめていました。