吉澤誠一郎「清朝と近代世界」(岩波新書)を読んで、昨年はじめて読んだ大佛次郎の「天皇の世紀」(文春文庫)の冒頭部分に書かれている清朝末期のありさまとのあまりの違いに驚きました。
大佛は清朝を衰亡するしかない大国として描きました。皇帝のまわりには無能な官僚たちしかいず、無為無策のうちに大国はほろびていったかのような記述です。私の清朝末期観も同じようなものでした。
この本は「ともすれば単に衰亡の過程とみなされがちな歴史をとらえ直し」、「生き生きとした時代像を」提示しています。吉澤によれば「腐敗堕落した王朝という見方は、実は辛亥革命を正当化するという政治性を強く帯びていた」ものなのです。(引用はいずれも「あとがき」からです。)
吉澤の意図は成功しました。清朝を支えようとする人たち、それを倒そうとする人たちが魅力的に描かれています。わずかな孫文に関する記述にも、孫文の考えていた革命とは私の理解とは違うのではないかと、再考を促されました。
最近の近代史研究の本には驚かされるものがたくさんあります。それは、あながち私の無知のためだけではないでしょう。

清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書)
- 作者: 吉澤誠一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/06/19
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 31回
- この商品を含むブログ (32件) を見る