チェーザレ・パヴェ−ゼの「故郷」(河島英昭訳/岩波文庫)を読みました。1969年の晶文社版の改訳です。
私は原著が出たときに一度読んでいます。あの頃はポール・ニザンやヴァルター・ベンヤミンの著作も晶文社から刊行されはじめ、私も何冊か求めました。ニザンの「アデン・アラビア」はちょっとしたベストセラーになり、冒頭部分をうっとりするようにつぶやく人が多かったものです。完読した人は少なかったようですが。
さて「故郷」です。ストーリーはすっかり忘れていました。それでも、十代の私はこの本を何のひっかかりもなく読んだ記憶があります。今回は難渋しました。不完全な文が多いのです。まさか今時、こんな悪文がまかり通るわけがありません。原文がそうなっているのでしょう。
だってタイトルからしてヘンです。小説の舞台は主人公の故郷ではありません。縁もゆかりもないところです。
訳者による巻末解説に「原題直訳が不可能に近い」とありました。「おまえの(単数形)故郷たち(複数形)」とすると、より正確になるそうです。私の故郷、ではないのです。
フォークナーの世界に似ている気がしました。人が簡単に殺される田舎の物語だからでしょうか。パヴェーゼはトリノ大学でアメリカ文学を専攻しましたから、フォークナーを読んでいたかもしれません。
これ一冊だけでは、なんともすっきりしません。この前後に書かれた「流刑」と「美しい夏」も読むとしますか。

- 作者: パヴェーゼ,河島英昭
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/06/14
- メディア: 文庫
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