「たちかわアイム寄席」で文菊さんの演った「鮑のし」、孫弟子なのですから当然ですが、後半は志ん生流でした。本来のサゲは、志ん生の時代でもわかりにくくなっていたのでしょう。
しっかり者の女房、おみっつぁんの入れ知恵で、大家さんのところの婚礼に亭主がお祝いを届けに行きます。町内からの「つなぎ」の前に届けて、いくらかのお金をいただこうという算段です。届け物は尾頭付の魚がいいのでしょうが、金が足らずに鮑になってしまいました。
「磯の鮑の片思い」とは縁起が悪いと突っ返されるのですが、帰り道で会った知り合いに切り返し方を教わります。のしの根本の鮑のどこが悪い、までは同じですが、それから先が別れます。
元のかたちは「熨斗」の書き方(「のし」と「乃し」)で大家さんに逆襲され、しどろもどろに「千早ふる」のような応答をして終わります。変体仮名の「乃」が「杖つきの乃」と呼ばれているのを知っていることが前提となります。
志ん生はそれを「鮑のし」自体に変えました。鮑のしをこしらえるのは、後家ややもめではだめで、仲のいい夫婦に限られているのだから、縁起が悪いわけがないといわせるのです。
しかし、サゲはそれとは結びつきませんし、鮑のしの作り方もこじつけのような気がします。
鮑のしが見られなくなってしまった現在、この噺の寿命はつきたように私は思います。それにしても、大家さんはおみっつぁんの小利口なところがよっぽど気に障っていたのでしょうね。