旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

ライムジュース

映画を見ている(ような)夢を見ました。
若い男女の逃避行のようです。女は二十歳前で、男はそれより少し上でしょう。ふたりの姿が淡々と描かれますが、そうなった事情はわかりません。ところどころに男の不審な行動が挟まれています。
男と同年代の私は、映画館でこの映像を「こんなもん誰も見ねーよ」と悪たれをつきながらひとりで見ています。ということは、七十年代前半なのかな。
ふたりは女の兄の住む古い大きな家にたどりつきました。ここをめざして逃げてきたのでしょう。河瀬直美監督の「萌の朱雀」で見たような風景の中にその家はありました。
よく磨かれた廊下、開け放された障子の向こうに疲れ切って熟睡するふたりがいます。女が寝返りを打つと上掛けがはね、全裸の後姿が映し出されます。臀部に幼さが残っています。
ここまでは会話が一切なく、音楽もありません。季節は夏ですが、蝉の鳴き声さえ聞こえません。無音です。
家の前に駐められた自動車に兄と私が乗っていました。映画を見ていたはずだったのに、その中に入ってしまったようです。
「あいつには別な生活があるような気がするんだ。」
兄は男のことをよく知っているのでしょう。男の行動を見ていた私は、口には出さずにそれを認めました。フロントガラスが軽く叩かれます。
車の外には兄の妻と妹が立っていました。ドアガラスを開けると妻が氷を入れたタンブラーを渡してくれました。それを手にすると、今度は妹が濃緑色の液体を注ぎ入れました。毒々しい色に驚いているのを察してか、妹が「ライムジュースよ」と言いました。夢はそこで唐突に終わりました。
映画は妹のヌードで終わっても、その後のシーンを加えても、宙ぶらりんな結末であることに変わりはありません。寝る前に、ヌーベルバーグの作品のことを思い出していましたので、こんな夢を見たのでしょうか。
それにしても、あんな色のライムジュースはないよな。