旭亭だより

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堀川惠子「教誡師」

先週の日経新聞の書評で取り上げられ、気になっていた堀川惠子の「教誡師」(講談社)を読み終えました。浄土真宗の僧侶で一昨年に亡くなった教誡師、渡邉普相氏へのインタビューをもとにしたノンフィクションです。
発表は渡邉氏の死後にするという約束だったそうです。また氏の希望で、七十年代までの事件の死刑囚しか取り上げられていません。名前の多くも仮名です。
渡邉氏を教誡師に誘った同じ真宗の僧侶との出会いがまず語られます。龍谷大学の学生時代に売春婦の更正施設を作りたいと考えていた氏は、そのために東京の寺に婿入りした人です。社会事業には関心があり、それを引き受けます。
死刑囚たちとの会話や人物像の後に、渡邉氏の広島での被爆体験が描かれます。当時、氏は広島市立中学の生徒でした。顔を火傷し、人を押し分け水を飲む氏は、それを求める手を振り払いながら働いていた軍の施設にたどりつき、九死に一生を得ました。が、そのことが悔悟としていつまでも残ります。
渡邉氏の通っていたのは巣鴨拘置所で、絞首台が使えず、処刑は宮城刑務所でおこなわれていました。そのため、氏はずっと死刑執行には立ち会わずにすんできました。
小菅刑務所に処刑場ができ、拘置所もそちらに移ることになりました。移転前に東京での処刑が再開され、渡邉氏もそれに付き添うようになりました。
本の後半では教誡を受けていた人たちが次々にこの世を去っていきます。それとともに、氏の生活にも大きな変調が訪れます。アルコール依存症です。
内容の紹介だけになってしまいました。私は死刑執行について書かれた本は読まずにきました。この本を手にしたときも、必ず触れられているであろうその部分が読めるのか、自信がありませんでした。
堀川氏の、当然抱いているであろう死刑に対する考えを控えた叙述のおかげで、なんとか読み通すことができました。


教誨師

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