旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

ボクシング (3/3)

四十代の頃、元プロボクサーと親しくなりました。なじみの居酒屋で偶然隣り合わせになったのがきっかけです。その時は雑談だけで、ボクシングの話はしませんでした。それから、私が飲んでいると彼が隣に座るようになりました。
彼は世界戦に挑んだこともあるボクサーでした。名前は記憶にありましたが、顔までは覚えていなかったので、私は彼が名乗るまで、ボクサーであったことは知りませんでした。ボクサータイプであった彼の顔には、ゆがみや傷跡がなかったのです。
ボクシングに関する質問には丁寧に答えてくれましたが、彼の方からその話をすることはありません。普通に楽しく飲める人だったのです。
次に会う約束も、電話番号も教え合いませんでした。居酒屋の仲間とはそういうものです。彼は頻繁に来ていたようで、私がいないとがっかりしていたと店の主人に聞きました。
最後にあった日に、実家に帰りボクシングジムを開くと言っていました。家は裕福のようで「費用はすべて親持ちです」と、恥ずかしそうにつぶやいていました。その町は東京からはだいぶ遠いところにありました。