旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

天沢退二郎『宮沢賢治の彼方へ』

小学五年生の夏休みはいつもの通り茨城県の母方の実家で何日か過ごし、帰りに祖父から小遣いを五百円もらいました。子供の頃の私は小遣いを貯めることができず、もらうとすぐに使ってしまいました。その時はポプラ社から出ていた小学生向けの日本文学全集の宮沢賢治の巻を買ったのです。これには夢中になりました。何度も繰り返し読み、おかげで今でも「雨ニモマケズ」と「永訣の朝」は諳んじることができます。ただこの本には「銀河鉄道の夜」は収録されていませんでした。
中学生になると賢治は読まなくなりました。高校で賢治の詩が好きな友人ができ、彼に触発され筑摩書房の『宮沢賢治全集』を揃えました。天沢退二郎(あまざわたいじろう)と入沢康夫が編纂した『校本宮澤賢治全集』以前の版で、確か水色のクロース装の瀟洒な本でした。天沢の『宮沢賢治の彼方へ』(思潮社)も入手し、全集と併せて読んでいました。
その後『校本宮澤賢治全集』も購入しましたが、このような本をどう読んでいいのかわからず、手放してしまいました。今手許にはちくま文庫版の全集があります。また『宮沢賢治の彼方へ』は新増補改訂版が1993年にちくま学芸文庫から刊行され、すぐに買いましたが読んではいません。
天沢の死を知っても『宮沢賢治の彼方へ』は開けずにいます。彼の論考と賢治の詩は渾然として頭の中にあり、それをそのままにしておきたい思いが強いのです。