旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

「気死せしめるやり方で」

はじめての論文が英国の「ネーチュール」誌に掲載されたことから、南方熊楠は語学の才能にも恵まれていたと思い込んでいましたが、『履歴書』を読むと学ぶ人であったことがわかります。件の論文は校正刷りを持って大英博物館の「東洋図書頭サー・ロバート・ダグラス」を訪ね、添削を受けています。また「プリンス片岡」という、名前からしてうさんくさそうな詐欺師を「英語の上手なり」と認めています。
ロンドン時代に「議論文章に動作に、しばしば洋人と闘って打ち勝」ったとも南方は『履歴書』に書いています。洋人の一人「オランダ第一の支那学者グスタヴ・シュレッゲル」からは「議論をふきかけながら、負けかかりたりとて勝つ者に無礼よばわりをする」ので「謝状をと」ったそうです。その部分を「いわゆる人を気死せしめるやり方で、ずいぶん残念ながらも謝状を出したことと思う。」とまとめています。「気死」という言葉を知りません。手持ちの辞書には載っていません。夏目漱石は当て字をよく使います。同時代の南方もたぶんそうでしょう。なら「気死」は「愧死」です。