大西巨人著『神聖喜劇』の通読は二度ですが、手に取ることはよくあります。数頁を読んだり、アンソロジーとして利用することもあります。どう読んでも私を叱咤激励してくれる本で、主人公の東堂太郎は理想の人物ではありませんが、その人にあやかりたい気持ちは常にありました。
今また第一巻から読んでいます。読み進めるにつれて、七十歳を過ぎた私は、東堂が嫌悪軽蔑する登場人物たちによく似ていると思うようになりました。忸怩たるものがありますが、矯めるには歳を取り過ぎました。
『神聖喜劇』は優れた娯楽小説でもあり、漱石の『猫』と同じで、読み始めたら止まらなくなります。卑劣な私が愛読書としていることを、作者は許容してくれるだろうと祈るばかりです。