大西巨人著『神聖喜劇』第四部「伝承の章」の第三「縮図」の《村崎一等兵の話》を何度も読み返しています。ここで引っかかったのははじめてです。
村崎の語りだけで進みますが主人公東堂との対話で、東堂は聞き役に徹し発言は書かれていません。内容は主に軍隊の給与についてです。まず士官と兵士の給与の実際の金額の差が述べられ(なんと一等兵と二等兵は同額です)、そこから一歩進んで実質的な違いの話になるのですが、帝大中退で博覧強記の東堂は尋常小学校しか行っていない村崎に論理的に打ち負かされてしまうのです。学校出の兵士に対する村崎の一面からではない批判にも、私は感心するばかりでした。
彼のようになら私でも生きられたかもしれない、生きたかったと、不可能と知りつつ望んでしまいました。