歳を取るほどにその人の先見の明に驚かされています。著書で知った人ではなく、日常的に接していた、私より十歳ほど年長の男性です。最後に会ったのは二十年前で、酒を飲みながらゆっくりと話をしましたが、彼と二人だけで飲んだのはそれが最初でもありました。
夢にもよく出てきます。役柄はいつも実際と変わりません。それは、親しみは感じていなかった私に、その人の感化の大きさを教えてくれていたのでしょう。
彼が始めて役を演じる夢を見ました。夜の都心で、薄っぺらな小金持ちといった風情の私は、目的の場所はすぐ近くなのにタクシーを止めました。ドライバーはなんとその人でした。乗るのをやめようとすると「この時間は空車は少ないから乗ってけよ」と言われました。
道は渋滞しタクシーは少しも進みません。降りて歩いて行くと告げると、近道を教えると彼がついてきました。少し歩き道を教わり、料金を尋ねました。彼はポケットから領収証を取り出し、それに料金の数倍の金額を書き入れ、私に渡しました。無言で「目を覚ませよ」と伝えているのが痛いほどわかりました。