『坊っちやん』には、その後の漱石の小説にたびたび現れ問題となる、資産の処理と配分が早くも登場します。坊ちゃんの母が死んだ六年後に「おやぢも卒中で亡くな」って、商業学校を卒業し九州の会社に勤めることになった兄が「先祖代々の我楽多」と「家屋敷」を処分するのです。
坊ちゃんは六百円貰い物理学校に入学します。甥の家に引き取られることになった清にも五十円が与えられました。坊ちゃんは「家を畳んでからも」清と会い続けます。清は甥にも坊ちゃんを自慢します。
「只清は昔風の女だから、自分とおれの関係を封建時代の主従の様に考へて居た。自分の主人なら甥の為にも主人に相違ないと合点したものらしい。甥こそいゝ面(つら)の皮だ。」
坊ちゃんはそんな視点も持っていたのです。