旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

視点を変えると

読み終えた積ん読本の中に柳田邦男の「マリコ」があります。
日米開戦時にワシントンの日本大使館の一等書記官であった寺崎英成の一人娘、マリコとその母でアメリカ人のグエンの半生に取材したノンフィクションです。
出版されてから30年近くたっていますので、その後の情報公開により、この本の資料的な価値はなくなっているように感じました。また、登場する人たちの多くが現存していたせいか切り込みが浅く、グエン母娘を持ち上げるだけで終わっているように思えます。


新潮文庫版の解説は深田祐介で、彼の書くものには関心のなかった私ですが、納得するところがありました。それは、このノンフィクションが「じつは男たちの挫折の物語ではないか」という指摘です。
男たちとはマリコの父とその夫です。


寺崎英成は戦時中から病気がちで、戦後は宮内省の御用掛となり、天皇マッカーサーの会見の通訳を務めたりしていましたが、昭和26年に50歳で亡くなりました。妻と娘はアメリカに帰っていて、葬儀には列席していません。
深田は「米国への彼女の帰国は、実質上の結婚解消のように理解される」と書いていますが、私も同感です。


マリコの夫であるメイン・ミラーは弁護士をしながら下院議員を目指しますが叶わず、民主党本部の中央委員になった妻とは反対に、早すぎる晩年には相次ぐ身内の不慮の死もあってか、政治から距離を置くようになりました。


この「男たちの挫折の物語」という視点を得ると、この作品には別な味わいが出てきます。意志の強い女性たちの物語は、挫折した男たちのそれを下塗りとして、描かれていたのです。
余談ですが、私はマリコの絵をまったく評価しません。デッサン力が問題にならないほど不足しているからです。


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