旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

谷崎潤一郎『蓼喰う虫』

二十年ほど前に刊行された中公文庫の『潤一郎ラビリンス』はとてもよくできたアンソロジーでした。十六巻全ては揃えませんでしたが愛読しました。初めて読む作品が多く、谷崎の大きさに何度も感心したものです。
久しぶりに谷崎が読みたくなりました。まず手にしたのは短編『猫と庄造と三人のをんな』です。内容はすっかり忘れていて、庄造を谷崎の作品によく出てくる趣味人とばかり思い込んでいましたので、そのふがいなさに驚くとともに、寄り添ってやりたくもなりました。
次に読んだのは『蓼喰う虫』です。これも再読ですが虚心に読むことにしました。こちらでは筋金入りの趣味人が描かれています。主人公、要の義父はその典型です。京都に住み、娘より若い愛人と暮らし、彼女を自分好みに育てています。
こんな老人に、以前読んだときの私はきっと嫌悪感を感じたはずです。でも今は、憧れはしませんが、そんな生き方ができる時代もあったのかと、すんなりと読み進めることができます。私が彼より年上になってしまったこともあるのでしょう。
老人の義太夫地唄についての思いがところどころに描かれますが、それがとても興味深いのです。彼が東京から関西に棲家を移した人だからでしょう。それを、やはり東京に生まれ育った谷崎自身と重ねてみることもできそうです。
年を取ることも悪くはないようです。