旭亭だより

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斎藤史再読

松本清張の「昭和史発掘」2.26事件篇をやっと読み終えました。厚めの文庫本で5冊、半分以上が資料といっていい引用で、その多くがカタカナ表記でしたから、戦後生まれの私には読みづらい本でした。書名は「昭和史発掘」となっていますが、2.26事件篇に先行する4冊は、その前史として書かれていますから、これは松本による2.26事件研究といえます。小説の部分はまったくありませんし、2.26事件論でもありません。
2.26事件に関する本は少なからず読んできましたが、これを読み終えて、やっとこの事件の全貌が見えてきたという気がします。途中、それらの本を読み返したくなったのですが、読了後にしようと禁じてきました。


さて、どうやら読み終えました。まず手にしたのは2.26事件叛乱幇助で入獄した斎藤瀏少将(当時は予備役)の長女、史の歌文集でした。史は蹶起将校の中心人物、栗原中尉と幼なじみでもありました。
私が彼女の名を知ったのは、自刃した村上一郎の個人誌「無名鬼」に書かれた文によってでした。歌人でもあった村上は、史の「魚歌」を絶賛していました。


松本の「昭和史発掘」2.26事件篇は、公平な視点から書かれています。どちらにも批判的といった方がいいでしょう。ですが、獄中で「行動記」を残した磯部浅一についてだけは、その死を惜しむ気持ちが感じられました。
栗原中尉は蹶起にもっとも熱心な将校でしたが、蹶起後は影が薄くなっていきます。
斎藤少将は、お人好しのおせっかいやだったのでしょう。それに、自分が予備役であることをわきまえていません。
そのような見方をするようになってしまいましたので、斎藤史の短歌や文章を、以前のように感動しながら読むことはできませんでした。でも、これを経過することによって、村上の呪縛から離れて、彼女の歌の魅力を再発見できる日が来るのでしょう。
「魚歌」の絶唱を引いておきます。事件当時、史は身ごもっていました。


 暴力のかくうつくしき世に住みてひねもすうたふわが子守うた


斎藤史歌文集 (講談社文芸文庫)

斎藤史歌文集 (講談社文芸文庫)