旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

喜瀬川には惚れちゃいけねえや

入船亭扇遊師匠の登場です。
ゲストが一名増えたせいでしょうか、マクラはあっさりと切り上げておはこの「お見立て」に入ります。


落語の演題は符牒に過ぎない、と言ってしまえばそれまでなのですが、この「お見立て」、演題で損をしているような気がしてなりません。
現代の私たちが<見立て>と聞くと、どうしても病院の診断を思い出してしまいます。歌舞伎好きの方でしたら、品物になぞらえた<見立て>を連想するかも知れませんが。


落語「お見立て」では見て選ぶことを指していますが、遊郭で客が遊女を選ぶことも意味しますので、このふたつをかけているのでしょう。
喜瀬川花魁を見立てた杢兵衛大尽が、喜瀬川の嘘でありもしない墓を見立てさせられる、こんな噺です。


遊女の喜瀬川と嫌われている客、杢兵衛、それを取り持つ妓夫の喜助の三人しか登場しない噺ですが、それだけに演じ分けと間が大切になります。
が、そんな心配はいりません。扇遊師匠は艶のある声と軽快なテンポで、大爆笑のオチまで一分の隙もなく私たちを運んでくれました。
真打ちはすごい、とつくづく感心した一席でした。


それにしても喜瀬川という花魁はなかなかしたたかな女です。起請文を三枚も書いているくせに、一方では嫌いな客は「死んだ」とまで嘘をついて断ってしまう。でも、そんなところに男は惚れてしまうのかな。オレだけが本当の間夫だよ、ってね。
えっ、「三枚起請」と「お見立て」の喜瀬川は別人だよ、ですって。
うーん、「お見立て」には陸軍上等兵の墓も登場しますから、さもありなんですね。でも、私は同じと思いたい。本名、中山みつの喜瀬川花魁に惚れちゃったのかな。


「喜瀬川には惚れちゃいけねえや」と言っておきながら、ていたらくな私でありました。