旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

長門勇さん

昨日の新聞に俳優の長門勇(本名・平賀湧)さんの訃報が載っていました。
私は長門さんと面識はありませんが、小さいころ奥さまに随分とかわいがってもらいました。平賀のおばさんに、と言った方がしっくりしますが。
当時私の伯母は独身で、長門さん夫妻と同じアパートに住んでいました。伯母のところには泊まりがけでよく遊びに行きました。伯母は平賀のおばさんと仲が良く、私が行くと必ずその部屋に連れていったのです。
おばさんの部屋は伯母の部屋とはだいぶ間取りが違っていました。広くて、陽当たりのいい部屋でした。でも、私のお目当てはテレビです。テレビはまだ贅沢品で、我が家にはなかったのです。
おじさんは浅草でお芝居をしているとのことでした。サイドボードの上にはおじさんの写真が飾ってありました。小首を傾げ右手の指を顎に置いた、ブロマイドのようなモノクロ写真でした。「カッコいいでしょ」とおばさんは言いましたが、私にはそうは思えませんでした。帰りの遅いおじさんには、私は一度も会えませんでした。
私が行くと、おばさんはいつもお菓子を出してくれました。それと紅茶。決まってママレード入りでした。今でもママレード入りの紅茶を飲むと、あの部屋を思いだします。
伯母が引っ越すと、おばさんと会うことはなくなりました。私がおばさんのことをすっかり忘れてしまったころに「三匹の侍」の桜京十郎の絵はがきが届きました。写真には直筆のサインがあり、おばさんのメッセージも添えられていました。おじさんが長門勇であることを、私はそれで知ったのです。