旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

拝み屋譚

以前働いていた会社でこんなことがありました。
短期間事業所として使うためにプレハブを建てることになりました。私の上司が土地借用と建築の手配をしました。それが終わってからこんなことを頼まれました。
「あそこは自殺があって建物を取り壊したのだが、何かと悪い噂が絶えず、ずっと空き地になっている。その近くに有名な拝み屋さんがいるらしいので相談に行ってくれないか。」
これは面白そうな仕事です。悪魔払いを見られるかもしれないと、お調子者の私はひょこひょこ出かけました。拝み屋さんが住んでいるのは普通の民家で、それらしい看板はありませんがすぐ見つかりました。
拝み屋さんは還暦はとうに過ぎた女性でした。白い着付けに袴姿で、「これじゃなくっちゃね」とは思いましたが、どうも何か違います。神秘性はなく、憑きもの付きとも感じられないのです。こんな格好をしていなければどう見ても農家のお婆さんです。背後の祭壇にはあちこちの神社やお寺のお札と、古道具屋で二束三文で売られているような薄汚い品々が飾られているのも胡散臭げでした。
けれど侮ってはいけません。「あなたはんはわてをエテモノと馬鹿にしておられるのであろう。喝!」と一目で見抜かれているかもしれません。
「(これこれの)土地を借りたのですが、いわくあるところと聞きましたもので、ご相談に参りました。」
「あっ、あそこ、あれはよした方がいい。もう借りちゃったの?しょうがないね。じゃあお祓いをしてあげるからお布施を置いて行きなさい。」
失礼とは思いましたが「いかほどでしょうか」と尋ねました。三千円でした。
お札を書いてくれるのか、その場所に行きお祓いをしてくれるのかと待っていましたが、何もありません。「どうしたの」と問う表情でしたのでその旨を伝えました。
「ここでやっておくからもう帰っていいわよ。それと、借りているうちは毎月来なさいね。」
領収証はもらえませんでした。上司に報告したところ「君、毎月行ってくれよ」とのことでした。
それから約二年拝み屋さん詣でが続いたのですが、彼女が加持祈祷をしている場には一度も遭遇できませんでした。