五日前の便りに、「芝浜」を「火焔太鼓」でサゲる「芝浜の火焔太鼓」(ベタだねぇ)という噺をふと構想したなんて、したり顔で書きましたが、古典落語をいくつか繋げてひとつの噺とするアイデアはすでに使われていました。おまけにそれは、私の思いつきなどよりはるかに精緻に、落語ファンなら誰でも「そうきたか」と納得できるような形に仕上げられていました。愛川晶「神田紅梅亭寄席物帳 道具屋殺人事件」に収録されている「らくだのサゲ」です。
この連作ミステリーの語り手、亮子の夫である二つ目の落語家、寿福亭福の助が一門の勉強会で「らくだ」の新しいサゲ作りに挑戦します。福の助は元の師匠で、現在は館山で病気療養中の落語家、山桜亭馬春のアドバイスから、「らくだ」に「富久」「黄金餅」さらには「藁人形」までも合体させ、演じます。そして、それはある失踪事件の解決に繋がっていくのです。
「道具屋殺人事件」には三つの作品が収められています。主要な登場人物はみな同じで、舞台は神田にある人形町末広亭を髣髴させる寄席、紅梅亭(ただしこちらは椅子席)です。一種のベッドサイド・ディティクティブもので、車椅子探偵である馬春は春風亭柳朝師匠をモデルとしています。
一席目の表題作「道具屋殺人事件」はそんなにいい出来ではありませんが、これはまあ開口一番ということで、二席目「らくだのサゲ」とトリの「勘定板の亀吉」には感心しました。
落語を知らなくても読めるミステリーですが、落語ファンならその三倍は確実に楽しめます。続編が待ち遠しいなぁ。
柳朝師匠と志ん朝さんがやっていた伝説の「二朝会」。時代的には行くことができたのですが、一度も足を運びませんでした。悔やまれます。
道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳 [ミステリー・リーグ]
- 作者: 愛川晶,解説・鈴々舎わか馬
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2007/08/23
- メディア: 単行本
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