先日の便りに、小林信彦「紳士同盟」を読まなければよかったと書きましたが、それはこの作品の評価とは関係ありません。私は、続編の「紳士同盟ふたたび」とともに復刊を待ち望んでいました。それに、今回の扶桑社文庫版は丁寧に編集されていて、とても感心しました。お買い得です。
これまた復刊を熱望していた有明夏夫の「なにわの源蔵事件帳」シリーズも、完本ではないのですが、小学館文庫から刊行が始まりました。ジョージ秋山のカバーイラストが目印です。
実は私、このシリーズを読むのは今回が初めてなんです。桂枝雀師匠主演のテレビドラマの原作として、書名を知るだけでした。おまけに、そのドラマも一度も見ていないというお粗末さです。
で、申しわけないことなのですが、枝雀師匠のイメージに合わせて、源蔵親方像とシリーズの内容を勝手に作り上げていました。浪花人情捕物控、そのような小説を想像していたのです。
それはいい意味で裏切られました。明治10年ころの大阪を、たぶん当時の新聞資料を中心にきちんと調べ上げ、その時代だからありえたであろう一風変わった犯罪を組み立てた、山田風太郎の明治ものに匹敵する作品だったからです。
私は、現在聞ける古典落語の多くは江戸時代ではなく明治時代を背景にしていると考えています。昭和の名人たちが、彼らの記憶に残る明治の風景の中に一見江戸時代風の登場人物たちを自由闊達に動かし、それが伝えられたのが古典落語なのです。
私は東京の古典落語の背景を、山田風太郎作品をはじめとするたくさんの小説で、実感を持って知ることができました。「なにわの源蔵事件帳」シリーズは私に大阪落語の舞台を教えてくれることになりそうです。それと大阪ことばもね。
- 作者: 有明夏夫,細谷正充
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/10/07
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (7件) を見る