旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

ファミリーロマンス

三浦雅士の「出生の秘密」(講談社)は丸谷才一の短編小説「樹影譚」の紹介からはじまります。「樹影譚」は村上春樹の「若い読者のための短編小説案内」でも取りあげられていますが、私は読んでいません。
丸谷の小説のファミリーロマンスに関する部分を引用し、三浦はオットー・ランクの著作にふれます。オットー・ランク、聞き覚えのある名前です。
数頁を読んだだけで放り出した大塚英志の「『捨て子』たちの民俗学」(角川選書)を思いだしました。この本の冒頭では、小泉八雲の父方はジプシーであると書かれたハーンの古い評伝が引用されています。ただ八雲は、父の生まれたアイルランド守護聖人からとったパトリックという名を捨て、自らの生まれたギリシアレフカダ島にちなむラフカディオを名告るようになるのです(彼の母はギリシア人でした)。こちらも、いささか複雑ですが、ファミリーロマンスに関わる内容で、その後にラングの名が出てきます。
その後、この二冊の本の軌跡は離れていきます。一方は起源の小説を求め、他方は日本の民俗学の起源に向かうのです。小泉八雲柳田國男折口信夫は、虚構の来歴を語っているからですが、どこかで交差しそうです。
オットー・ランクの著書の一冊くらい読んでいなければならない年齢の私ですが、手にしたことすらありません。恥ずかしさは感じていますので、お目こぼし願います。