旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

『念珠集』と『赤光』

斎藤茂吉の第一随筆集『念珠集』(講談社文芸文庫)を読んでいます。『鳴滝日記/道』を書棚に戻したときに見つけ、引っ張り出してきました。購入から十二年、ほったらかしにしてあった本です。
『念珠集』は「島木赤彦臨終記」「念珠集」「小品集」の三章からなっています。茂吉の第一歌集『赤光』の冒頭の「悲報来」は師伊藤左千夫の死去の報に接して詠まれた一連の作品で、その少し後に「死にたまふ母」が続きます。「念珠集」は実父守谷伝右衛門の死後、その思い出を念珠の珠のようにつないだものです。「アララギ」同門島木赤彦の臨終記の後に死んだ父についての文を置く『念珠集』は初版『赤光』と構成が似ています。
「念珠集」の「漆瘡(しっそう)」という文章が心に残りました。年かさの大きい「童子」に漆の汁で腕の内側に女陰と男根を描かれ、かぶれて治らなくなる話です。同時にいたずらをされた他の子供たちのそれが消えても茂吉少年だけはひどくなるばかりでした。二ヶ月が経ち母に見つけられ、父親が作ってくれた油薬で「瘡は極く『平凡』に癒え」ました。それでも男根図の痕は高等学校に入るころまで残っていたそうです。いたずら「童子」が父の弟の子であったことが「念珠集」最後の文で明かされます。


「死にたまふ母」五十九首は高校二年生のときに読みました。筑摩書房版の現代国語の教科書にその一部が載っていて、私と同姓の教師が全編をガリ版で刷り、配布してくれたのです。
塚本邦雄の『茂吉秀歌「赤光」百首』を再読してみたくなりました。