旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

路上の商い - ささやかな、本当にささやかな

わずかな商品を乗せた木製の車を押している小柄なおばあさんがいました。手作りの車は小さく、売っているものは店晒しにされ埃をかぶったように見え、私は立ち止まることもありませんでした。
私の母は農村で生まれ、育ちました。家は農家ではなかったのですが、曳き売りや露店に胡散臭さを感じていたと思われます。それでも縁日の夜店にはよく家族で行きました。下町育ちの父がそれを嫌いなわけがありません。
二人のときに母が外で買ってくれるのはおでんだけでした。買う屋台は決まっていて、そこはほかとひと味違っていました。母自身も食べたかったからでしょう。
そんな母が、おばあさんの店のものを買ってくれたことがありました。珍しく、母がそれを促したのです。欲しいものがなくて選びかねていると、「これにしたら」と母は蝋粘土を手にし、代金を払いました。「こんなの、いらない」と口に出かかったのですが、私は黙って蝋粘土を受け取りました。4歳のことでした。
薄暮の中に貧相な身なりの小さなおばあさんが立っている、その情景を忘れたことはありません。哀しさだけでなく、暖かいものを感じたからです。それがどこから来ているのか、何度も問い、いくつもの答を出してきました。正解など求める気はありません。あのひとときが、丸ごと私の中に残っていることだけでいいのです。