えー、高崎小旅行のお話の続きでございます。
八王子発の八高線は、看板に偽りありで、高崎に直行しません。高麗川で川越線に入ってしまうのです。いさぎよく八川線に改名して欲しいものです。
小江戸として人気の川越行の方が利用客が多いからだろうと思っていましたが、さにあらず、別の理由があったのです。
こんなことをわざわざ書くと鉄っちゃんに笑われてしまうでしょうが、高麗川・高崎間は電化されていないのです。で、二両編成のディーゼルカーに乗り換えです。
向い合わせの席に座りました。先客は私より少し年配のご夫婦です。椅子と椅子の間隔が狭いので、体を動かすと奥さまと膝がふれあってしまいます。
私は iPod でビル・エヴァンズの晩年の演奏を聞きながら、岩波文庫の「20世紀アメリカ短編選」の下巻を読んでいました。高崎までの一時間半は楽しく過ごせそうです。
すると、向い側の奥さまが私に話しかけてきました。ヘッドホンをしている相手に声をかけるのですから、何か失礼があったのかもしれません。私はあわててヘッドホンを外しました。
「今日は主人と川越に行ってきたんですよ。ふたりで電車で旅行するなんて、新婚旅行以来です。」
ああよかった。話し相手が欲しかったようです。私は iPod と文庫本をバッグにしまい、彼女の話に耳を傾けました。
「先週、テレビで川越の蔵造りの町並を見て、行きたくなったんです。でも、想像とは大違いでした。人が多すぎて、立ち止まることさえできないんです。」
ご夫婦は高崎で農業をしているそうです。お子さんたちは家を離れて所帯を持ち、一日中ふたりだけでいる生活が長く続いているとのことでした。お土産のお芋のケーキと飴も見せてくれました。
たぶん、ご夫妻と私は五歳くらいしか違わないはずです。でも、まったく異なった世界で暮らしてきたような不思議な思いがしてなりませんでした。
そんなことを考えているうちに、どうやら電車は高崎駅に着いたようです。