旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

<立ち上げ>過ぎると<損なわれる>ものもある。

村上春樹の「1Q84」を読みました。発売前から大ベストセラーを約束されていた作品ですから、これから山ほどの書評や作品論を目にすることになるでしょう。
たぶんそれらには書かれないことをひとつだけ、記しておきます。


<損なわれる>ということばは村上のキーワードのひとつですが、「1Q84」でも「またかよ」と感じるほどに大盤振る舞いされています。村上は(あえてそうしているのでしょうが)語彙の少ない作家ですし、1000頁近い小説ですからそうなるのもしかたないのでしょうが、明らかに使い過ぎです。


また、(私の大嫌いなことば)<立ち上げる>の使用頻度が高いことも気になりました。彼は今まで、あまりこのことばを使わなかったのですが、どうしたのでしょうか。
巻末に「本作品には、一九八四年当時にはなかった語句も使われています。」と書かれていますので、あのころはそんなおかしなことば遣いはなかったとはいいませんが、だからこそ、<立ち上げる>にこだわる村上に、私は違和感を感じました。


地の文ならともかく、会話にまで<立ち上げる>は使われています。私が一番我慢できなかった部分を引いておきます。主人公天吾が(彼が)リライトした「空気さなぎ」という小説の作者ふかえり(これもあまりにも陳腐なネーミングです)に語ることばです。

「でも『空気さなぎ』はもともと君の物語だ。君がゼロから立ち上げた物語だ。君の内部から出てきた物語だ。僕はたまたま依頼を受けてその文章のかたちを整えただけだ。単なる技術者に過ぎない」
(「1Q84」BOOK 2、454頁)


天吾くんはおそらく、あまり腕のいい技術者ではないのでしょうね。おまけに「空気さなぎ」もつまらなそうだし‥‥。


1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1