旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

江戸時代の絵画

先週の出張のお供は辻惟雄の二冊の文庫本でした。「奇想の系譜」と「奇想の図譜」で、ともにちくま学芸文庫です。


「奇想の系譜」は二十代のころに、美術出版社版を図書館で借りて読んだ記憶があります。副題は「又兵衛−国芳」となっていますが、それ以外に四人の画家が論じられています。
国芳の項に「一つ家」の絵額が浅草の観音さまに奉納されているとありましたので、早速見に行きました。本堂内に掲げてあるため、線香の煙で変色していましたが、絵のすばらしさは確認できました。(残念なことに現在この絵は本堂にありません。)


「奇想の系譜」に紹介されている作品には本当に驚きました。江戸時代の絵画についてはごく一部の浮世絵しか知らなかったのですが、写楽を除いては凡庸に美しいだけと決めつけていたからです。


今回の再読では若冲についての記述に蒙を啓かれました。
私は、若冲の作品の魅力は細密画のような描写力にあると思っていました。手本を写すという日本の絵画の伝統から離れ、身近なものを写生するという修行を彼は自らに課したと考えたのです。


あながちそれは間違ってはいなかったようなのですが、辻は応挙の写生に及ぶものではないと述べています。しかし、応挙が「それらの形状の精密なコピーに腐心しているのにくらべ、『池辺群虫図』に描かれている<虫の楽園>には、ユーモアとグロテスクのカクテルされた、何とも不思議な表情がある(104頁)」というのです。
また、中国の絵画からの影響で、当時は写生がブームになっていたとか。


江戸時代の絵画の画集はほとんど持っていません。春画は発禁になるかもしれないと何冊か求めましたが、あとは「北斎漫画」一揃いがあるきりです。
でも、今は画集を探すより実物を見に行きたいな。


奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)