旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

カルヴィーノ「むずかしい愛」

なんでこの本を買ったのだろう、と疑問に思うことがたまにあります。ほとんどの本は背の書名を見ただけで、どこでいつごろ買ったのかという記憶がよみがえりますが、この手のものはそれさえありません。
そんな本を書棚に見つけると、ひとまず手に取り、奥付の出版年からなんとか入手の経緯をたどろうとするのですが、まず失敗に終わります。そこで結論は、寝ているときに親切な小人の本屋さんが届けてくれた、ことになります。「真夜中の本屋さん」です。
お題の本もその中の一冊です。イタロ・カルヴィーノの小説は、晶文社の名作揃いの叢書「文学のおくりもの」で「まっぷたつの子爵」を二十歳前に読んだだけです。それも書名を覚えているだけで、カルヴィーノの名はすっかり忘れていました。イタリアの大作家、カルヴィーノを知らないの、と笑われそうですが、まったくそうなので無知を恥じるしかありません。
和田忠彦訳の岩波文庫のこの本には「ある○○の冒険」と題された十二の短編小説が収められています。どれもが日常生活のささいな出来事で、冒険ということばにはそぐわないものばかりです。それらをまとめて「むずかしい愛」としたことも、それらしい作品がないわけではありませんが、「冒険」と同じようになぜ?と考えさせられてしまいます。ともかく、「まっぷたつの子爵」とはまったく違った趣で、それはそれで楽しめる短篇集でした。
原文がそうなっているのか、ストーリーや登場人物にしっくりしない生硬な表現をあちこちに見受けました。私にはそれが、文章自体としてうまく理解できませんでした。
海水浴中におろしたての水着の下の部分を失ってしまった奥さん、いい人たちに出会えてよかったですね。(「ある海水浴客の冒険」)