旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

悪夢について

小さい頃、夢の怖さに声をあげ、親から起こされたことが何度かあったようです。そのときにどんな夢を見たのかは覚えていません。ただ、記憶に残るあの頃の怖い夢から想像はできます。
どれもが真っ暗な夢です。ぽつんぽつんとわずかに白い灯りが見えます。街灯かもしれませんが、あたりを明るくするようなものではありません。私の歩く道は乾いていたり湿っていたりします。でも雨が降ることはありません。
後ろに何かの気配がします。とてつもない凶暴さを感じます。人なのか、獣なのか。このままではそれに襲われてしまいます。足をはやめ、走ろうとするのですができません。足はゆっくりとしか動かないのです。あるいはそこに貼り付いてしまったような。だいたいはそこで目覚めました。寝汗をかいたこともしばしばです。
夢は続くこともありました。自分がどんな場所にいるのかもわからないのですが、危難から逃れるために何かをしなければなりません。走るのがだめならここから飛び降りよう。ジャンプしました。暗黒の空間を落下していきます。息苦しい。どこへ行くのか、たぶんこのままずっと落ちていくのだろう。それもまた恐怖です。そこで夢は終わります。
そんな夢は十代のある時期から見なくなりました。落下の夢は、明るい景色の中を落ちてはいくのですが、途中から飛翔する夢に変わりました。
恐怖の正体がわからない夢を、私は悪夢と呼んでいます。怖い夢は今でもたまに見ます。それらはとても具体的で、なぜ怖いのかがよくわかるので「悪夢」ではありません。あまりにも荒唐無稽なものもあり、それを楽しんでしまうことさえあります。それともう一つ、幼い頃と違ってきたことがあります。夢を見ながら、これは夢だと気づいているのです。それもまた夢なのでしょうが、老年になってからそうなってきました。
年齢というか経験の豊富さは、間違いなく夢と関係があるのでしょう。「悪夢」を見なくなったことがその証とも思えます。さらに年を取り、死が近づいてきたときにはまた違った夢、それこそ新たな「悪夢」を見るようになるのか。今は考えたくありません。