旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

「俳風三麗花」

「俳風三麗花」

先週の「旭亭だより」に書きました三田完「俳風三麗花」を早速求めました。どちらかというと速読派の私ですが、ほかの本に目を通す間にゆっくりと味わいながら、少しずつ読んでいます。


時代は昭和七、八年で、日本が暗い時代に向かいつつあるころですが、まだ生活に潤いはあり、二十歳を少し過ぎた三人の麗人の服装もお洒落です。
この時代を背景にした小説は、当時のものを除いて読んだことがありません。著者の三田さんは昭和三十一年生まれですから、麗人たちは彼の祖母の世代の人たちということになります。*1


両親の育った時代を書く作家は多いのですが、祖父母のそれとなると直接話を聞くこともあまりないでしょうし、かといってその時代のディテールを知っている人も健在ですので、時代小説のように(時代考証にとらわれながらも)想像をめぐらして筆を走らせることもできず、なかなか制約が多くて大変だと察せられます。


彼女たちが往き来するのが日暮里、浅草、新富町など、私がよく知っている町であることも、(私にとって)この小説の魅力を高めています。時代が違っていることは承知していますが、変化の早い東京の町にも、かすかにそのころの匂いは残っているものです。
これでまた町歩きの楽しみが増えました。どこかで彼女たちの面影を残す人に、会わないとも限りません。


昨日は富士山の写真を載せましたが、「夏富士」という季語があることをこの本で知りました。
「五月にはいり雪が溶けはじめた富士の姿」だそうですが、三社祭も終わったというのに富士山はまだ真っ白です。

*1:実はこの人の作品を読むのは今回が初めてで、きめ細やかな文章から、私はすっかり女性作家と思いこんでいました。