旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

落語「どす黒い」(上)

「ご隠居さん、いますか。」
「おや八っつぁん、ここんとこ見かけなかったけど、どうしてたんだい?」
「いやー、仕事で八王子の方に行っていたもんで‥‥。」
「ほう、商売繁盛でよかったね。で、今日はなんのようかい?妖怪は水木しげる京極夏彦にお任せ、なあんてね。」
「(また始まったぞ、駄洒落じじいめ。こんどはその手にゃ、のらないからな。)ご隠居さん、この前教えてもらった『千早振る』という歌の意味、ぜんぜん違っていたじゃないですか。あっしは八王子の普請場で大工仲間に得意になって話して、大恥をかいてしまいましたよ。」
「おお、竜田川の話か。あれはおもしろかっただろ?」
「たしかにそうですが、ありゃ作り話ですよ。」
「話はおもしろい方がいいだろう。普請場ではさぞかし八っつぁんは、仕事仲間の人気者になったんじゃないかな?『八公、おめえの話は落語みたいにおもしれえな。噺家になったらどうだい』なんて言われてな。」
「とんでもねえ、仲間からは馬鹿にされっぱなしですよ。『駄洒落好きの腐れ隠居の話を真に受ける大馬鹿野郎のコンコンチキだ』なんてね。」
「こら、腐れ隠居なんて、口が腐っても言うもんじゃない。」
「いえ、あっしが言ったんじゃねえ。大工仲間がそう言ったんだ。『腐れ隠居のへちゃむくれ、足は水虫、まゆ毛虫、お前のかあちゃん出べそ』ってね。もっともへちゃむくれから後は、あっしが今考えたんですけど‥‥。」
「どうも八っつぁんの仲間は口が悪くていけない。友人は選んだ方がいいよ。唐土孔子さまも『朋あり、遠方より来たる、また楽しからずや』とおっしゃっておってな。そのような、語りあって楽しい人たちこそ友だぞ。」
「あっしの読んだ貝塚茂樹先生の『論語』では『有朋、遠方より方び来る。亦楽しからずや』になっていましたけどね。」
「(こいつなかなかできるな。人は見かけによらぬもの、だ。)まあ、訓読は星の数ほどあるからな。(ぼろが出ないうちに、話をそらさなきゃ。)で、今日はなんの用で来たのかな?」