旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

雨街 風街 路面電車は

(10年以上前に書いた都電についての文章があります。「大きくなったらチンチン電車の運転手になりたいとぼくは言った」という、なんとも恥ずかしいタイトルの文なのですが、その一部を以下に引用いたします。誤りもありますが、そのままにしてあります。手抜きで申しわけありません。)


20年ほど前に日本テレビ系で放映されたテレビドラマ「たんぽぽ」の主題歌は松本隆作詞、吉田拓郎作曲の「隠恋慕(かくれんぼ)」でした(歌唱は吉田拓郎)。

雨街 風街 路面電車は 想い出みたいに横切り消えた
線路の向うで子供のように 両眼を押さえた君が立ってた

この歌が流れるオープニングには、当時既に東京ではそこだけになってしまった路面電車都電荒川線が映っていました。ぼくはいつもそのシーンが終わるとテレビを消してしまいましたので、宇津井健主演のドラマの内容はまったく知りません。
主題歌とそれだけで十分ドラマになっていました。歌詞は次のように続きます。

正直すぎる男が優しすぎる女の肩抱いた時 雨も上るよ
隠し隠せぬ隠恋慕
好きといえずに空見上げれば やっと見つけたよ倖せの影
 (歌詞の表記は発売当時のシングルレコードのまま)


橙色の電燈が照らす小さな商店たち、町工場、そこをぬって走る路面電車、そんな画面にこの歌が流れればもう何も付け足すものなどいりません。
テレビではそこまでは使いませんでしたが、二番の歌詞もとてもいいものです。

夢街 川町 舟を指さす 人生抱くには小さな君の掌
ごらんよか細い生命線を 一緒に重ねてみるのもいいね

都電荒川線は、車内から川面を見ることはできませんが隅田川に沿って走っています。
「舟を指さす」、ぼくの子供の頃には舟を家とした水上生活者たちがいました。小学校のクラスにもその子弟が在籍していたのですが、長期欠席扱いとなっていました。
小栗康平監督の映画「泥の河」(1981年/木村プロ)にも舟の中で生活する家族が出てきます。隅田川の水上生活者と加賀まりこの演じる母親の方便(たづき)の仕方はまったく違うのですが、「泥の河」の風景はあの頃の東京の下町にぴたりと重なります。


ぼくが初めて憧れた仕事は都電の運転手でした。
車掌と運転手が連絡のために紐のついた鉦を鳴らす音から、チンチン電車と呼ばれていた都電はぼくを未知の世界へ連れ出してくれる不思議の国の乗物でした。
泪橋」か「浅草山谷」の停車場でチンチン電車に乗ります。吉野町、今戸を通り浅草へ、さらに厩橋、浅草橋、小伝馬町を過ぎ日本橋まで。日本橋からは東京駅や銀座へも歩いて行くことができます。


しかし路面電車はぼくが高校を卒業する頃から次々と廃止され、憧れの職業が消えていくという挫折を味わうことになりました。