私が起業した頃、株式会社の設立には1,000万円以上の資本金が必要でした。最低額で始めましたが数ヶ月後で増資しました。計画通りにいかなくなったのです。
製造業でしたから設備に金がかかります。資本金だけではとてもたりません。それを知った上で起業したのは、あるリース会社が一定額までのリースなら引き受けると提案してくれたからです。初期の設備投資はその「一定額」で足りました。海のものとも山のものともつかぬ会社にどうしてそのようなことをしてくれるのか尋ねましたら、「会社ではなくあなたを信頼しているからです」と言われました。
約束は反故となりました。機械を発注し書類を揃えてリースをお願いしたところ、即断られ「創業時には苦労した方がいいですよ」というありがたい処世訓まで頂戴しました。
「会社ではなくあなたを」は紋切り型の殺し文句で、その後もさんざん聞かされました。リースのときもそうでしたが、私は右から左に聞き流していました。だってちょっと考えたらわかるでしょ。会社の借金(リースも借金の一種です)には、零細企業なら経営者が連帯保証人となるのが通例です。会社が返済できないのなら(リース料が払えないのなら)連帯保証人が責任を負わなければならないのですから、貸す側にとっては「会社」と「あなた」は同じものなのです。「会社ではなくあなたを信頼しているからです」は「何かあったらお前が払えよ」ということなのですが、前者のように言われると心地よくなる善人もいるのでしょう。