起業して5年目に税務調査がありました。調査に来た方の開口一番がこうでした。
「御社のように発展が著しい会社はすぐに国税の担当になってしまいますから、その前に来ました。」
リップサービスです。零細製造業が国税の扱いになるなんてあり得ないことです。通常の税務調査の範囲は過去5年までですから、お約束の訪問なのです。税務調査は嫌われるもの、それを円滑に進めたかったのでしょう。
このときは修正申告をしました。建物の償却を定率法でやってしまったからです。故意ではなく、建物が定額法でしか償却できないと税法が変更されたことを私は知らなかったのです。
彼はこうも言いました。
「税務署員がこんなことを言うのもなんですが、あなたの報酬は安すぎます。こんなに利益を上げているのですから、今の倍はもらってもいい。」
これもまた快い言葉です。「あなたは優れた経営者で、おまけに謙虚だ」なんて褒められていると勘違いする人もいるでしょう。さて、その心は。
「零細企業なんてすぐにうまくいかなくなり、赤字になるに決まっている。そうなれば法人税はゼロだ。人は金に貪欲なもの、一旦役員報酬を上げたなら会社が赤字になろうがそれをもらい続けるだろう。これで所得税が取れる。税金の名目なんてどうでもいいのさ。」
税務調査で誤りを指摘されたのはこれ一回だけでした。三度目の調査からは、二日間と通知されても一日で終わるようになりました。