旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

田中絹代

俳優、監督だった田中絹代さんが出てくる夢を見ました。これほどめちゃくちゃな夢を見たのは久しぶりです。
時代は映画製作の初期で、私は田中さん主演の映画のスタッフでした。撮影現場で働くのではなく、交渉事が主な仕事です。映画の舞台はブラジルでした。だけど現地撮影はありません。飛行機はまだなくて、簡単には海外に行けないのです。日本人のブラジル移住も先のことで、なぜブラジルが選ばれたのかわかりません。
田中さんがひとり筏でアマゾン川を下るシーンが見せ場です。監督はここだけは本物のアマゾン川でなければならないと、現地ロケはないのに譲りません。だいたいあの時代の映画にロケなんかありません。
そこで私が一計を案じました。ブラジルの映画制作者にそのシーンを撮影してもらい、それに田中さんの映像を合成するのです。モノクロ、無声の時代です。そんなのできるわけないのですが、世界初の快挙となって映画史に残ると、私は周りをあおり立てました。無責任な奴です。で、その交渉役が私に廻ってきてしまったのです。
不思議なことにブラジルとは音声明瞭な電話が繋がっており、打ち合わせはとんとん拍子に進みました。私、ポルトガル語ができたんですね。なんとファクスのようなものまであり、絵コンテも送れます。おまけにドローン(のようなもの)で上空から筏を追いかけて撮影することになりました。途中には落差の大きい滝があり、ワニやピラニアもいて、手に汗握るシーンの連続になりそうです。
これで私はすっかり調子づいてしまいました。合成で入れ替えてしまうのですが、実際に筏を操る役にダメ元でジャンヌ・モローを指名したところ、これもすんなりと決まりました。
こりゃ、どこまでいくのかな。わくわくしていましたが、ここで夢は終わってしまいました。
田中絹代さんの映画はあまり見ていません。私にとって田中さんは、東海林太郎が歌った「すみだ川」の台詞の女性です。竹屋の渡しの近くで育った私には、山口生まれの田中さんのイントネーションが気になってしょうがなかったのですが。