旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

岡部伊都子

岡部伊都子さんの随筆集『鳴滝日記/道』(講談社文芸文庫)を読み終えました。七年前に買い、ずっと書棚で眠っていた本です。
岡部さんの本を手にしたのは高校生の頃で、友人に薦められたからです。書店に並んでいた新潮社版の著書を三冊求め、立て続けに読んだ記憶があります。その中には、この文庫本の元になった『鳴滝日記』もありました。どの本にも感心したのですが、なぜかそれ以後、岡部さんの新刊を求めることはありませんでした。十代の私には、古都案内としか読めなかったのでしょう。ただ病弱だった少女時代、お菓子にどれほど助けられたか知れないという文章だけは、今でもはっきりと覚えています。
それからほぼ半世紀が経ちました。昔の自分の貌に出会うのではないかと冷や冷やしながら頁を繰りましたが、すぐに手ごたえのある文体を持った文章に引き込まれていきました。文を味わうという喜びを久しぶりに体験したのです。
「四季採譜」「無限に生きる」と章立てされた前半の文章は初めて読むもので、それによって京都生れとばかり思っていた岡部さんが大阪の出身であることを知りました。
岩波書店が出版した全五巻の『岡部伊都子集』は、今ならまだ古書で容易に入手できそうです。さて、どうしましょうか。